ある春の日

その日は、天気が良く 空は青く澄んでいてようやく温かくなった風を運んでいた。


その夫婦は早朝から、2人で結婚式に出るための着付けの準備をしに出かけていた。



今日は娘の結婚式



その下の弟は、2年程前に20歳の若さにもかかわらず早々と結婚し、

今では、かわいい孫がいる。

自分の子供たちの結婚式に出るのはこれが2度目になるが

前回とはどうやら勝手が違う…



会場に向かうバスが自宅に到着する約20分前に自宅に帰ってきた

何か落ち着かない…

ネクタイの結び目を何度も気にしたり

時計の針を何度も見たりしている



窓からさす陽の温かさに思わずレースのカーテンを開ける

その瞬間、部屋中が温かい春の光が満たされる

庭先の桜の木に花が咲いていればもっと良かったのにと

夫が呟くと

妻が隣に寄り添って、そうですねと答えた


そうして5分程経つと、もうそろそろバスが来ているだろうと

荷物を持って家を後にする

少し歩いて振り返ると今出てきた自宅が見える


この家を建てて約20年ほどの歳月が流れた…


庭先にはしゃいで走りまわっていた何十年前の娘の姿が浮かぶ…




今日はその娘の結婚式



案の定、バスは到着していた

運転手がバスから降り 本日はおめでとうございます と声をかけた

そのバスに一緒に乗るはずの弟夫婦が少し遅れて慌てて合流

あどけない孫を観るとさっきの落ち着かない気持ちはどこかへいってしまった


そして、家族を乗せたバスは走りだした

今日、また新しい家族が生まれる


空は、高く青く温かく春の訪れを確実に伝えていた



(矢頭)